書籍紹介:農薬に頼らずつくる 虫といっしょに家庭菜園

今回は『農薬に頼らずつくる 虫といっしょに家庭菜園』という書籍を紹介します。

家庭菜園や畑をされている場合、虫といえば『気持ち悪い』『作物を食い荒らす厄介者』という印象をお持ちの方も多いと思います。そうでなくとも、例えばテントウムシが益虫とは知っているものの、その幼虫の姿を知らずに駆除してしまっていた、という話も聞きます。

本書は作物を育てていれば出会うであろう虫たちの知識と、それらとうまく付き合っていく方法を指南してくれます。虫を味方に付けることができれば、家庭菜園でもこんなに心強いことはないと思います。

こんな方におススメ

本書の読者としては、こんなことを考えている方におススメです。

  • 害虫の経済的・効率的な対処方法を知りたい
  • 益虫のことをもっと知って栽培に役立てたい
  • 自然や植物・生き物が好きだ
  • 家庭菜園は楽しいけど虫は苦手
  • 農薬はできれば使いたくない

反対に少品目栽培で作業効率化を目指すような場合は、本書の内容はあまり役に立たないと思います。考え方が真逆だからです。ある程度の品目がないと生物の多様性は得られず、本書の内容は実践が難しくなります。

著者について

本書の著者は、千葉県柏市で年間100品種以上の野菜を栽培されている、ファーム小川の小川幸夫さんです。元は農薬もバリバリ使っていたプロであり、農薬の使用をすっぱりやめてからも結果を出し続けているので、本書の内容には説得力があります。無農薬とは思えないピカピカの野菜たちを育てていらっしゃいます。

小川さんは自称ビオバウアー(Bio bauer)、農業界のムシキングと呼ばれているそうで、畑仕事中に虫の観察に熱中してしまうこともあるようです。なんだかシンパシーを感じます。小川さんがどのような考えであるかは、こちらのコラムが参考になります。

それでも有機野菜をつくる理由
「有機栽培か慣行栽培か」という私たちが陥りがちな二項対立の議論には興味がないという若手農家の2人。彼らが目指す農業とは…

『無農薬有機栽培』というと、趣味レベルで儲け度外視でやっているんだろうという疑念が生まれますが、経済合理性もきちんと考えた上で選択していることです。それはコラムや本書を読めばよく理解できます。

本書が目指す病害虫防除アプローチ

病害虫防除には下記4つのアプローチがあります。

  1. 耕種的防除(適地適作、適正施肥、接ぎ木、輪作など)
  2. 生物的防除(天敵、フェロモン剤、コンパニオンプランツなど)
  3. 物理的防除(防虫ネット、シルバーマルチ、光による誘殺など)
  4. 化学的防除(化学農薬など)

4つの防除方法のうち、本書は『2.生物的防除』のために必要な知識である虫についての内容がメインです。『4.化学的防除』を排したとしても、残りの3つを適切に組み合わせることで、害虫を過剰に恐れる必要はなくなるよ、というのが著者が自身の農場で実践されていることです。

効率を優先する少品目栽培では、植物やそこに生きる生物の多様性は育まれないので『4.化学的防除』に頼らざるを得ないと思います。ですが私のような家庭菜園ならば、それで生計を立てているわけでもありません。多少手間がかかっても色んな生き物が「こんにちは!」してくれる環境の方が、やっていて楽しい気持ちになるんじゃないでしょうか。

虫を活かすにはコンパニオンプランツの知識が役立つ

虫を活かすこと、そこにはコンパニオンプランツが深く関わっています。天敵を効率的に利用するインセクタリープランツやバンカープランツ、お互いの害虫を遠ざける植物の組み合わせ、土壌の微生物環境を整える植物など、コンパニオンプランツが果たす役割はとても大きいものです。

もちろん基本的な野菜栽培の知識は絶対に必要ですが、それに加えて虫の知識とコンパニオンプランツの知識が合わされば、鬼に金棒ではないでしょうか。本書はコンパニオンプランツについては触れる程度なので、利用例や仕組みを知りたいなら、こちらの木嶋利男さんの書籍が大変参考になります。

さいごに

私も屋上の小さなスペースで家庭菜園を始めてから、害虫も益虫もけっこうな種類の虫をみてきました。植物の生長と同じくらい、生物相が豊かになっていくのが楽しくなっています。とはいえ、ヨトウムシやコナガ、ナメクジなどに好き勝手やられたときは、もうカンベンしてくれと半ベソになったものです。

本書にはそれら害虫とうまくつきあっていくためのエッセンスが散りばめられています。畑の虫の世界は『害虫/益虫』という単純な二元論ではないことが理解でき、虫についての感情は確実にプラスに振れるはず。切っても切れない相手(虫)のことをよく理解して、より楽しい家庭菜園ライフを送りましょう。

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